MF-51修理


はじめに

本機は、もともとはニキシー管を取って残りは捨てるつもりだったものですが、入手時動いたので温存したものです。

症状

1MHz Check を行うと、電源投入直後は 1MHzだが、しばらくすると 1.25MHz程度となりカウント値も不安定。
カウント動作を行うと、8→0に戻る桁や、ボケたままの桁があるなどおかしい。

調査

本機はカウンタ基板、制御ロジック基板、アンプ基板、電源基板の4基板から構成されている。
現象から、カウンタ基板の故障の可能性が高いと判断。カウンタICを中心に再半田→改善せず。
パスコンが少ない(チューブラ電解1つ)ため、積層セラミックを追加→改善せず。


カウンタ基板 初段以外、各桁7490→7475→74141の構成

あれこれと点検していたら、下部の電源基板に断線した部品を発見。
一瞬、昔のゲルマTrと思ったが足は2本。型番(1S752)を調べたらツェナDiだった。


足が折損した1S752

電源ツェナが断線モードで故障すると、出力電圧は上昇(通常はレギュレータ入力電圧程度になります)し、2次故障の可能性がきわめて高くなります。
自分で電源を設計するとき、基準と帰還路のオープン故障は出力が過電圧モードになるので一番気を付ける部分です。
御多分にもれず、他も壊れていました。(後述)
電源は一番最初にチェックしないといけませんねー。
スタティック表示方式の複数桁で異常が発生していたので、共通部分は電源というヒントが実はあったのですが。
壊れる直前、周波数測定していた際にカウンタに衝撃を与えてしまい、その際計数が止まったんです。
電源OFF/ONで治ったのですが、このときに断線した可能性が高いです。
後から考えれば、ですが。。。

電源修理

部品箱を探したが、2.7V付近のツェナはないので、LEDで代用します。
基準電圧が変わったので、VRで出力電圧を調整。
端ギリギリで5Vとなんとか調整はできたのでヨシとします。

修理ついでに電源周りを調査。
基準発振OCXO専用の+24Vと、カウンタ/アンプ用-12,-5,+5,+12Vの合計5系統電源。
各電源回路ともレギュレータは+側なので、トランスは全回路独立巻線となり、なかなか大げさな構成だ。
このうち、OCXOの+24VはパネルSWに関係なく通電されており、常時予熱していることがわかった。
それで、トランスが2個使われていた。
OCXO用+24Vはツェナ+エミッタフォロワの簡易安定化電源となっている。

残りの4系統は基準ツェナ+OP-AMP?+パワトラによる通常の直列レギュレータのようだ。
NECのC4Aとか書いてあるCANパッケージだが探ってもデータシートが無い。おそらくOP-AMPだと思う。
(後日取説を入手、回路図によればuPC151)
部品配置から−側も+と全く同じ回路構成と思われる。-5Vも同じツェナが使われているのでLEDに予防交換。
この形状(ラジアル/縦型)を(アキシャル/チューブラ)実装すれば、自ずと断線しやすい。
12V側は通常のアキシャル形状であり、特に問題はないのでそのまま。

非安定入力電圧が高く、パワトラの発熱が多い。
+5Vに対し約11V、+12Vに対し24Vでちょっと高すぎる。
トランスに110Vタップがあったので、そちらに変更。
何分古い(40年超え)ので、電解コンデンサなどは交換したほうが良いのだが、お漏らしもなく、リプルも多くないので、このままとした。
今のコンデンサから比べると相当図体がでかいので、設計余裕が大きいのかもしれない。


左 入力アンプ、右電源 5V回路の基準を緑LEDに変更

二次故障修理

電源修理だけでは終わらなかった。
電源修理でいったんは正常に戻ったようだが、しばらくしたらゲートが開きっぱなしとなった。
カウント動作はするので、カウンタ基板側は問題ないようだ。制御側があやしい。
5Vラインにたぶん10V程度が加わったので、故障深度が深い可能性もある。

何分回路図が無いので、回路のトレースをしながらの故障解析となる。
面倒になってきて、PLDで制御ロジックだけ作りなおそうかと思いつつ、せっかくならオリジナルと同じ構成でPLD化するかなー、などと考えてトレース続行。

ロジックICはスタンダード74TTLを中心に、高速性が要求される部分はMECLというモトローラの高速ICが使われている。
高速性が要求されるのは、入力ゲートと初段カウンタだ。
初段カウンタはバラのF/F4つでBCD1ケタとしてあって、特にLSBは120MHz品、残りは85MHz品と使い分けされている。
当然、非同期カウンタの設計である。
今でこそCMOSでも100MHzはふつうに動くが、この当時(1970年代初頭)としては驚異的な高速性だったのではないか。

MECLはTTLと論理レベルが異なる(Hが-0.8Vくらい、Lが-1.4Vくらい)ため、この間を専用のI/F ICが取り持っている。
したがって、初段のカウンタだけで、9個(FFx4 + IFx5)もICを使っており、74TTLと相まって全体の部品数が多い。


制御ロジック基板


周波数カウンタは、メインカウンタ、タイムベース(基準分周)、ゲート制御回路程度から構成されるため、部品は多くても、ブロックごとに回路を追っていけば、面倒ではあるがどこが壊れているのかみつけやすい。
しかし回路図が無いため、パターントレースしながら進めるので捗らない。

計数カウンタとして動くので、メインカウンタはセーフである。
タイムベースは、7490 BCDカウンタを7直しており、1MHzから最長ゲートタイム0.1Hzを作るのだが、ここもセーフのようだ。
ということはゲート制御のどこか、ということである。

ECL-TTLレベル変換ICの故障

ゲート信号経路にあるレベル変換ICが故障していた。
同じ型番の他のICはTTL出力0-5Vでスイングしているが、ここは異常に振幅が小さい。
しかも、これを書いていて気づいたが、論理反転までしているようだ。


左 正常なもの、右 壊れたやつ CH1入力 CH2出力

ためしにパターンカットして出力オープンしても同程度の出力レベルなので、この変換IC故障は確定。
MC1018P...ebayを探ると1000円程度で新古品があるにはある。
海外のやり取りが面倒なこと、TRで代用できそうなので同等の回路をつけることで対応。


取り外したMC1018P デートコード7240ってことは、当方よりオールドだ...

データシートに内部等価回路があったので理解しやすい。
このICは、基準電圧源(ECLのH/L中間電圧)と、差動入力回路、出力回路からできている。
差動回路の一方を基準電位に、他方を入力とする。これを逆にすると入力論理が逆になる。
差動回路を使うということが、ECLの基本的なアイデアになっているようだ。


MC1018P 等価回路

基準電圧は、そう精密なものではなく、-5Vを抵抗分圧してエミッタフォロワで出力しているだけだ。(pin5)
他のICも同じ電源で駆動されていれば、分圧比さえあっていれば電圧の絶対値は問題にならないということだろう。
直列DiはTrのVBE温度補償用と思われる。
本来、基準電圧現をエミフォロしてから、差動側に加えるように使っており、Vbeが2か所あることから、補償Diも2本あると思われる。
今回基準のエミフォロは省略し、入力も1本しか使っていないことから、差動+出力の3Trとしてユニバーサルボード上に配置、本来ICの代用とした。


3Trの代用回路を実装

おまけ

基準周波数源として、50ミリ角、GTソケットという割と大型のOCXOを搭載している。。
ピンコンパチの互換OCXOが何故か手持ちにあったので、両方とも数時間予熱後に周波数測定。


左 本機のもの、右 同等互換のOCXO


1MHz 互換OCXOの測定

0.1Hzの桁までぴったり。 結構正確だ。
0.1Hz/1MHz、1E-7で安定なので、実力は一桁多い1E-8程度はあると思われます。
簡単に手に入るようになったRbやGPS同期の1E-10〜1E-11レベルからすると、今となっては「なんてことはない」精度かもしれません。
ふつうに使うには十分すぎる精度です。


OCXOの中身

打ち抜き絞りのアルミケースとの間には断熱材が入っています。
恒温槽に巻いてあるのはヒーター線と思います。
水晶本体はおそらくHC-6か、FT-243程度の割と大型のものが入っていると思われます。
特性のよさそうなガラストリマーで微調できるようになっていました。

MT-8801CをSGにして100MHzをゲート10秒で計測。差6.3Hz。これも1E-7程度のようです。
こだわればとことん精度を追及することはできます。でも、それで?。
必要性が思いつきません。現時点で、CALはしないことにします。

修理メモ MF51mem.ppt

後記

昔の機械という印象を強く受けます。蝋引き糸による束線、基板の半田づけ、全部手作業。手間がかかっています。
今の電気製品の手作業は、もうユニット組み付けとパッケージングしか残っていないのではないでしょうか。
人が不要になったわけです。昔なら製造ラインで働けた人たちも、今はニートになってしまったということでしょう。


銘板 昭和48年7月製造

おまけ

後日、オクで新たに入手したMF1603Aカウンタ(OP02 基準入り)と相互に基準周波数を接続表示。

MF51 MF1603Aの10MHzをゲート10秒で表示 0.1Hzの桁は0。
MF1603A MF51の 1MHzを表示 差は2.2mHz。
MF1603Aは短時間にmHzオーダーの分解能が出る優れもの。

似たようなOCXO(10MHz/12V)が入っている。

さらに後日、オクでマニュアルを入手。青焼きされているからコピーかもしれない。
取扱説明のほか、点検フローチャート、回路図もあり、今でいうサービスマニュアルの内容も含まれている。
図面の日付は昭和40年代前半で、紙はかなりくたびれている。

マニュアルより抜粋

ブロック図
結線図
入力アンプ部
ゲートコントロール部
カウンタ部
電源部

再び故障、修理(2015/11/20)

MC1017、レベルコンバータの故障。
1パッケージ2回路のうち、片方が壊れている。
他のMC1017で、一回路しか使われていないものがあったので差し替えて修理。
またいつ壊れるかわからない。。。

再々々故障、ボード作り直し(2015/12/29)

前回修理より1週間で故障。信頼性が失われているため、もう直さない。
代わりに、手持ちのCPLD(XC9572)を使ってロジックボードを作り直す。
BCDカウンタ×8と状態管理で35程度のマクロセルは最低限必要。
XC9572ならば十分。まだセルは余っている。
アンプとして使うインバータをのぞくと、1LSIに収まる。


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Created: 2014/05/31
Updated:2015/12/29